人と揉めず、傷つかないためには

 人と揉めたり、傷つかないためには、どうすれば良いのでしょうか? 人と関わらずに山奥や孤島で暮らす? でも、おそらくそれでは幸せになれないように人はできています。人は孤独を感じると不安感が高まるように、本能にインプットされています。人との関わりから逃れることは、基本的にはできないし、するべきでもないと思います。生活を成り立たたせるのも困難になるでしょう。関わりたくない人であることが分かっているなら、近づかないようにするくらいが現実的なところでしょうか。

 

 普段の生活では人と関わらないわけにはいきません。では、どうすれば良いのか? 挨拶や礼儀正しさはもちろん重要です。他にはどうでしょうか? 自分の感情を出さないこと? 何も感じないようになること? でも、それでは周囲の人に「何を考えている人か分からない」と思われ、不安感を与えることにもなるでしょう。そもそも、感情を出さなかったり、感情を感じなくなってしまうと、感動もできなくなってきます。感動できない人生を生きていると、「自分って、いったい何のために生きているのだろう?」という根源的な悩みにつながってしまいます。

 

 それなら、自分の感情を、(迷惑にならないレベルで)分かりやすく表現しつつ、上手に人と関わっていくことが必要ではないでしょうか。若い頃から、そんな風に心の奥底で考えるようになってきたのだと思います。学生の頃から現在にいたるまで、コミュニケーションについての本を何十冊も読み続けています。いろんなジャンルの研修に参加してみたりもしました。今も学び、考え続けています。その結果、昔に比べると、人と付き合うのが、はるかに上手になってきたようです。元々は対人恐怖症であった自分が、今では千人以上を前にしても講演できるようにもなりました。犯罪に巻き込まれたり、緩和ケアを受けて、逆に傷つけられたような方のフォローさえするようになりました。

 

 そこまで上達してきた自分ではありますが、それでも人と揉めることはあります。一番多いのは、やはり診察の時です。当科を初めて受診される方々は、困っているから受診されているわけです。気持ちに余裕がないのは当然のことです。寝不足で理解力が低下していたり、来院された時から、すでにこれまでの医療体験などで被害的になっている方も多いです。そのような方々に、まずはホッとしていただき、ゆっくりと事情をうかがっていきます。話の脈絡や時系列がずれていることも多いので、気分を害さないように、整理しながら話をうかがいます。そして、ユーモアも交えながら、質問や会話をして、それぞれの方に、オーダーメイドのアドバイスを行います。口頭で伝えただけでは、診察終了後に忘れてしまうものです。だから、その場で診察のポイントをワープロで入力して、印刷して差し上げるようにもしています。診察が終わった後の過ごし方こそが「本当の治療」です。月に1回、10~15分程度の診察時間内だけで、人生や考え方を変えることはできません。こういった風にして、当院なりの精一杯のホスピタリティーをしているつもりです。

 

 ほとんどの方には診察に満足していただけているように感じられます。「ここに来て良かったです」と帰り際に嬉しそうにおっしゃっていただけると、疲れも吹っ飛びます。それでも数パーセントの方々は、私の診察で不快になったり、怒りを感じることもあるようです。申し訳ないことだし、何より残念です。

 

 患者さんには誤解されるかもしれないし、嫌われるかもしれませんが、オブラートに包んでいない私を、診察時にはお目にかけるようにしています。診察室は、自分の本音を語って良い場所であると感じてもらうためには、私もなるべく正直な気持ちを語るべきだと思います。

 また、これまでの治療で、あきらかに薬の飲み方を間違われているケースもあります。その場合は、患者さんのことを考えれば、思わずアドバイスをしてしまいます。「その薬を朝に飲むと、昼間にボーッとしますよ」とか「その薬を夜に飲むと、逆に眠れなくなりますよ」とか。このままでは不幸になるのが分かっているのに、何も言わないのは、良い医者でしょうか? 立派な大人の態度でしょうか? 道を踏みはずしそうな人には、「馬鹿なことをするんじゃありません!」と叱り飛ばすこともあります。迷子の幼児がいれば、誘拐犯だと疑われようと、一緒に親を探してあげます。近くに迷子センターがあれば、連れていってあげます。

 そんな感じで、診察にはかなりのエネルギーを注ぎ込むのでヘトヘトになります。実際、エネルギーをかけ過ぎている面もあると思います。昨年から、不整脈の薬を飲むようになりました(汗)。

 一所懸命にアドバイスをしても、全然実行されず、ほんの少量の薬を出してみても、それすら飲んでくださらない。ネットやテレビの情報ばかり信用して、通院しているのに自己流のやり方に固執する人もいます。当然、状態は改善しません。すると、良くならないことに対して当院に文句を言ったり、一方的なことを口コミに書き込む人もいます。さすがにムッとします。ご自分の名前や住所、勤務先も知られている相手に対して、よくやるなぁとも思います。私が、よほどの人格者で、仕返しなどしないと“信頼”してくださっているのでしょうか(苦笑)? 気をつけないと、私の身がもたないかもしれませんね。

 

 できることしか、できないものです。無理は長続きしません。自分の器を、もっと大きくして、飄々とした診察もできる自分を目指し、できるだけ長く人助けをしていきたいと思います。